秋元康が「堀江貴文以来の天才」と呼んだ前田裕二の「人生の勝算」

2018年5月6日

人生の勝算 (NewsPicks Book)|前田裕二
人生の勝算 (NewsPicks Book)|前田裕二

金がないバンドマン時代を思い返して少し泣けた

今回する「人生の勝算」を書いた前田裕二氏は音楽ストリーミングサービス「Showroom」の代表を務めています。
前田裕二氏は小学生のころから路上で弾き語りをしていました。その後も、中学、高校とバンド活動をおこないました。その目的は「お金を稼ぐこと」
彼の幼少期の経験については、本書の中で十分書かれているので、後で少し紹介します。

ただ、私自身も深夜アルバイトや治験(薬の実験台になる割と稼げるバイト)で稼いだお金で、CDを作り、グッズを作り、いろいろな場所でライブをしてきました。
だから、音楽でお金を稼ぐ難しさは身に染みています。
高速代がないので下道で東京まで車を飛ばし、フラフラの状態でライブした経験も何度もあります。

本書の中で出てくるエピソードには、投資銀行で活躍していたころのエピソードもたくさんありますが、根底にあるのは「音楽でお金を稼ぐ」と考えていた幼少期の前田裕二氏です。

この本を読んだ後思いました。

自分は音楽で成功することをあきらめたが、早すぎたのではないか。
前田裕二氏のように、本気で頑張ったのか。
稼げないことをあたりまえと思っていなかったか。
ボロボロの軽バンで寝泊まりすることがバンドマンの美徳だと思っていなかったか。
本気で努力し、本気で考えていたのか。

世界を変えるために、個人の音楽活動では限界があります。そのことは前田裕二氏も、本書の中で述べています。しかし、本書を読んだ後「もっとできたんじゃないか」と感じました。

音楽に関わらず、何かで成功したいと思っている人みんなに読んでほしい一冊です。

SHOWROOM株式会社代表取締役社長
1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入社。11年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。株式市場において数千億〜兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。その後、0→1の価値創出を志向して起業を検討。事業立ち上げについて、就職活動時に縁があった株式会社DeNAのファウンダー南場に相談したことをきっかけに、13年5月、DeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年8月に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。現在は、SHOWROOM株式会社代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。

ライブストリーミングサービス「Showroom」とは

Showroomは日本国内の動画配信アプリで、ネットフリックスを抑え収益No1のサービスで、私も使っています。最初は一部の地下アイドルや楽器ができる個人がライブ配信するマニア向けのサービスでしたが、ここ数年で一気に普及しました。
私は楽器を弾いている人の配信をよく見ています。がっつり見るという感じではなくて、こういう記事を書いているときに流しながら、たまに曲をリクエストしたりとゆるく使っています。

Showroomの使用風景
Showroomの使用風景。マイナーアーティストが中心だが、AKBなど有名グループも活用している

写真のような感じで、配信する人とオーディエンスがいます。まさに、バーチャルライブ、バーチャルコンサートです。人によってはコメントに反応したり、リクエストに応えてくれたりします。

これまで、売れないミュージシャンがファンとかかわる場所はほとんどありませんでした。ライブをしてもお客さんは数人。SNSを使っても、Twitterを見てライブに来てくれたりCDを買ってくれる人はほとんどいない。一生懸命ライブしても、曲を作っても、CDを発売しても、それをオーディエンスに届ける方法がない。

レーベルに属して広告費をかけてもらわない限り、売れるチャンスはほとんどなかったわけです。

そうした業界の常識を変えたのが「Showroom」です。
Showroomができた経緯や理念について、本書で述べられていますが、いちユーザーとしていえることは、

すべての人にスターになるチャンスを与えたという点で、Showroomは間違いなく世界を変えた

ということです。

人は絆にお金を払う

前田裕二氏は、小学生のころに両親を失い、親戚のもとを転々としていました。そんな生活の中で最大のコンプレックスが”お金がないこと”だったといいます。
しかし、小学生がバイトをできるわけでもないので、兄にもらったアコースティックギターをもって、路上で弾き語ることでお金を稼ごうを考えました。しかし、路上弾き語りの経験がなくてもわかると思いますが、これで稼ぐことは簡単ではありません。
当然、小学生の前田裕二氏の歌に足を止め、お金を払う人はほとんどいませんでした。

そもそも、自分がお客さんの立場だったらどうか。僕の演奏に足を止めて、耳を傾けるのか。そうやって、あくまでドライに、通りかかるお客さん側の目線に立って考えました。「自分だったら立ち止まるだろうか」と。答えはNOです。

前田浩二|人生の勝算

小学生でこの視点にたてることが、すでにすごいですね。「お客さんの目線に立つ」これは、ビジネスの基本です。仮説を立てるときも、戦略を考えるときも、お客さんの視点が抜けていたらうまくいきません。

「誰も知らないオリジナル曲よりみんなが知っているカバー曲」「お金をもらうにはお金を持っている人に聞いてもらう必要がある」
こうした考えにより、試行錯誤と工夫を繰り返すことで、月に10万円くらいを路上弾き語りで稼ぎました。これは、ストリート歴が長いベテランでもなかなか稼げない額です。

ストリートで稼ぐ秘訣は「ヒト対ヒト」の関係を作り「深い絆を持つこと」だといいます。

ある日、「白いパラソル」を披露した女性がギターケースに1万円を入れてくれました。有名アーティストのライブを数千円で見れるのに、小学生の歌に1万円を払う人がいたのです。決して、プロより歌がうまいからではありません。その女性との間に「深い絆」があるからです。

この女性は、1万円を置いていく1週間前に前田裕二氏の演奏を見て、「『白いパラソル』って知ってる?」と聞きました。普通なら「知りません」というだけで終わってしまいますが、彼は「今日は歌えないのですが、来週の水曜の同じ時間に、もう一度この場所に来てもらってもいいですか?」といいました。
そして、一週間後、その女性の前で一生懸命練習した「白いパラソル」を披露しました。

彼女が払った1万円は、曲そのものに対する価値ではありません。路上で歌う小学生の子供が、自分のリクエストのために一週間一生懸命練習してくれた”物語”と”絆”に対して払ったのです。

アーティストは「自分の曲を聴いてください」というスタンスになりがちですが、それでは”物語”が生まれないのです。物語は”与える側”と”受け取る側”に双方向性があって初めて生まれます。
そして、この双方向性が絆を生み、それが広がることで”コミュニティ”が出来上がります。

この出来事は、著者がShowroomを立ち上げるうえで、とても大きな気づきになりました。

前田裕二氏は、物語と絆が生み出す”コミュニティ”が、これからのどんな種類のビジネスにおいても鍵になるといいます。

第一に、コミュニティには、現代人が価値を感じる要素が詰まっているからです。表層的なコンテンツ価値以上に、絆、すなわち、心への強い紐付きや、裏側にあるストーリーに価値を感じて人が消費をすることは、前述の弾き語りの事例でお伝えした通りです。そして、売上・収益が、人がどれだけの価値を感じたかを表す指標であることを考えれば、自らのビジネスの周辺にどれだけ濃い絆・コミュニティを形成できるかは、ビジネスの成功を語るうえで、決して無視できない要素になるはずです。

第二に、絆やコミュニティつくりの成功において、先天的な要因はほとんど関係がないからです。コミュニティの成功に影響を与える最大変数は、後天的な努力の絶対量です。これが、限られた誰かに与えられた才能や特権であるなら、話は違います。しかし、正しい方法論で十分量のアクションを踏めば、誰もが良質な絆とコミュニティを生み出すことができて、その結果、現代に沿ったスタイルでビジネスを加速させることができます。しかもこれは、アーティストや音楽、エンタメ分野に限ったことではなく、あらゆるビジネスにおいて適用でき、価値を増幅させ得ます。

前田浩二|人生の勝算

前田裕二氏が大切にする、絆やコミュニティにおいて才能は重要ではないのです。Showroomで人気の人を見ているとわかるのですが、才能にあふれ、歌もダンスも話もうまく、顔が整った人よりも、もっと未熟な人のほうが注目を集めています。
浜崎あゆみや宇多田ヒカルのように才能に満ち溢れたサラブレッドではなく、もっとへたくそで粗削りな、笑われながらも努力し続ける人が”絆”と”コミュニティ”を作り上げるのです。

なぜなら、人は”成長”する物語が好きで、”応援”することに絆を感じるからです。

これは、さびれた商店街で残り続けるスナックのようなものです。スナックでは「今月はお店が苦しそうだから、ボトルを1本多く入れよう」とか「飲み放題だけど、高いお酒を頼みすぎないようにしよう」といった行動が見られます。これはスナックという場やママとの間に、コミュニティと絆ができているからです。
これはお客さんが「店の立場に立って」応援してくれているということです。ビジネスにおいて、この関係がいかに強力か、説明するまでもないでしょう。
そもそも、スナックはおいしい料理が出るわけでも、高級なお酒が飲めるわけでも、かわいい女の子が働いているわけでもありません。ママの家庭料理と適当な割合のカクテル、素人の下手なカラオケで、たいていママは美人でもなんでもないおばちゃんです。

その”余白”にコミュニティ形成の秘訣があるのです。

人は絆にお金を払うのまとめ

コミュニティが深まる要素には以下があります。

1.余白があること
素人の歌に絆を感じて1万円を払った女性や、クオリティが低いスナックのサービスにコミュニティを感じ、お客さんがお店のために考え、応援する。これはプロや才能あふれる人間には出せない”余白”があり、それが魅力になっているからです。

2.クローズドの空間で常連客ができること
どんな商売でも同じですが、お客様は”特別扱い”が大好きです。しかし、大手チェーンや何万人もを対象にしたサービスでは特別扱いができません。その結果、絆が生まれず「利用者は多いが儲からない」という状態になってしまいます。スナックがチェーン展開しても失敗が見えているように、コミュニティはクローズドな空間で生まれます。そこから大きな利益を生む常連客が誕生するのです。

3.仮想的を作ること
AKB48の総選挙がいい例です。総選挙では普段は同じステージに立つ仲間が”ライバル”になります。ファンは、自分が応援する人が活躍できるように一生懸命応援しますが、仮想的がいない状態ではそこまで強くは動きません。仮想敵がいるからこそ「もっと活躍してほしい」「もっと応援したい」という気持ちになるのです。

4.秘密やコンテクスト、共通言語を共有すること
ジャニーズファンはそれぞれ自分たちのことを特別な名前で呼びます。嵐のファンは「アラシック」といいます。TOKIOのファンは「ウォーカー」です。知らない人が聞いたら訳が分かりませんが、こうした共通言語を持つことで、コミュニティはより強固になります。Showroomでも、特定アーティストを見に行くときには、全員がアバターの服装を統一させたりなど、ファンだけの秘密のコンテクストがあります。

5.共通目的やベクトルを持つこと
これはほかの秘訣にもかかわることです。例えば、「仮想敵に勝つ」という目的をファン全員が共有したとき、とてつもないパワーが生まれます。お金がある人は大量にサービスを買い込み、お金がない人はブログを書いたり、友達に紹介したり、ファン同士で計画を立てて行動し始めます。こうなれば、ビジネスの進化はもう止まりません。

Showroomが作る新しいエンターテインメントのかたち

ファンビジネスの4象限
ファンビジネスの4象限

前田裕二氏が描くファンビジネスの形に上記の図があります。「ファンビジネスの4象限」と呼ばれており、ファンとの距離を「偶像⇔身近」、ファンの数を「多い⇔少ない」で分け、ファンビジネスの全体を表しています。

右上にはトップタレントが入ります。ファンの数が多く、ファンとの距離が遠い存在です。例えば、浜崎あゆみさんはファンの数が非常に多く、一般のファンからは手が届かない偶像的な存在になっています。
左上には大手事務所に所属する新人や過去に人気があった人が入ります。ファンの数は少ないですが、事務所の力や過去の活躍によって、少数からは偶像的に扱われている人です。
左下はストリートミュージシャンや売れていない、無名のアーティストが属します。ファンの数は少ないですが、ファンとの距離が近い存在です。無名のアーティストはファンと飲みに行ったりSNS上で気軽にやり取りしたりしていますが、余計なプライドや事務所の規制がないため距離が近くなるのです。

そして、右下が、ファンが多くて距離が近い層、つまりShowroomが作り出そうとしている層があります。

右下がこれからのファンビジネスにとって非常に大きな役割を果たします。
アイドルはもともと、ファンが多くて距離が遠い右上に属していました。それを変えたのが秋元康氏がプロデュースするAKB48をはじめとするグループです。秋元康氏は「会いに行けるアイドル」としてファンとの距離を縮めました。
さらにインターネットやソーシャルメディアの出現によって、右下層は増え続けています。大量のファンと近い距離で交友し、物語を生めるようになったからです。

Showroomにはちづるさんという50歳のアイドルがいます。当然、50歳で大手プロダクションのオーディションに通ることはないでしょう。しかし、彼女はShowroomで人気演者の一人となっています。

ちづるさんは30年前におニャン子クラブに入りたかったそうです。30年間諦めていた夢を、Showroomを使って叶えたのです。そして、ファンとの距離が近いShowroomでは、そんなちづるさんの夢に共感し、応援したい人によるコミュニティができているのです。

「エンターテインメントにおいては、作り手が作りたいものを作ることこそが至高であり、どこかアート的であらねばならない。ムンクはあの時代、世の中の雰囲気を読み、マーケットインの発想で『叫び』を書いただろうか?違う。受け手など関係なく、自分が面白いと思うもの、純粋に内から湧き出るもので勝負する。そこからたくさんの心を打つ名作が生まれたんだ」

前田浩二|人生の勝算

これは、あるテレビ局幹部の言葉です。
確かに、これまではその発想が正しく、これからも一定数は「作りたいものを作ることが至高」というスタンスで成功する人がいるでしょう。しかし、この考え方では「湧き上がる才能を持った人間だけが成功する」となってしまいます。

AKB48が多くの天才アーティストを差し置いて売れ続けることも、大手チェーン店がつぶれる中でスナックが生き残ることも、Showroomで一生懸命頑張る素人が応援されることも、この考え方ではありえません。
インターネット、ソーシャルメディア、そしてShowroomがある現代においては、生まれ持った才能ではなく、ファンとの間に絆を生みコミュニティを深くできる人間が成功するのです。

インタラクションがクオリティとなる価値観を再定義したい

インタラクションとは相互作用のことです。ここまで読んでわかる通り、インタラクションこそが絆を生み、コミュニティを深くします。
これからの時代において、クオリティとは「パフォーマンスの質」ではなく「インタラクションの質」なのです。

大切なのは距離感です。
僕の場合は、お客さんが求める曲を一生懸命に練習して、歌うことで、距離を縮めました。エンターテインメントでは、原則として、一定のプロフェッショナリズムや、完成度が求められます。しかし、現代においてもっと重要なのは、表現者が、支えてくれるオーディエンスのところまで降りて、しっかりと丁寧なコミュニケーションをすることです。観客は、演者と自分の距離の近さを実感できたとき、今までなかった感動を味わい、より濃いファンと化します。
現代のクオリティコンテンツとは、プロがお金をかけて練り上げた完成品ではなく、その先にあるファンとのインタラクションがきちんと綿密に設計・実行されたものである、という価値観を、Showroomを通じて再定義しています。
このように、質の定義をShowroomが変えていけば、生まれや才能に関係なく、どこの誰であっても、努力や工夫次第で成り上がることが可能になると思っています。

前田裕二|人生の勝算

外資系投資銀行でも、求められたのは「思いやり」

著者の前田裕二氏は大学卒業後にUBSという外資系の投資銀行に入社します。Showroomの成功に、音楽経験が役立ったことは確かですが、実際にビジネスとして成功し、ネットフリックスを超える収益を上げられたのは、投資銀行での経験が大きいでしょう。

よくビジネス書では、人に好かれる能力を磨きなさいと説かれていますが、僕は逆だと思っています。人を好きになる能力のほうが、よっぽど大事だと思います。
人を好きになることは、コントローラブル。自分次第で、どうにでもなります。でも人に好かれるのは、自分の意識では本当にどうにもなりません。コントローラブルなことに手間をかけるのは、再現性の観点でも、ビジネスにおいて当然でしょう

前田裕二|人生の勝算

著者は最年少でマネジメントディレクターに抜擢されたエリート”宇田川さん”からこのことを学びました。

「勉強なんかいらないよ。とにかく人に好かれること。秘書でも、掃除のおばちゃんでも、受付の人でも、好かれなきゃだめだ」

このように言う宇田川さんは人に好かれる天才でしたが、それ以上に人を好きになる天才だったといいます。人のいいところや感謝できるポイントを自然に見つけて、自分から好きになってしまう。その結果、オフィスの受付(オフィスビルなので受付は勤めている会社の社員ではない)からも「もし宇田川さんから休日出勤してくれと頼まれたら、喜んでいつでも出てくる」「宇田川さんがいる会社だと思うと、UBSを訪ねてくるお客様には、つい愛想よくしてしまう」といわれるほど、人から好かれていました。

「仲間を増やせば会社全体、そして世の中、地球だって動かせるかもしれないんだよ」

この言葉を言った宇田川さん自身、元はトップの成績を残す証券マンでした。周りを顧みず、とにかく利益を追求するタイプだったようです。
しかし、会社でトップに立った時「こんなものか」「一人でできるのはこの程度が限界か」と悟ったそうです。

証券業という仕事においては、自分の力だけでは、どんなに努力してもたいした景色が見られないとわかった。数値でイメージするなら、一人で到達できるのは1まで。でも、チームを育てて、みんなの力をかけ合わせていけば、1を、2にも10にも、100にもできる。俺は、1以上の世界を見たい

前田裕二|人生の勝算

個人の力でトップにたち、さらにその上を目指したからの考察ですね。

そしてもう一つ、UBSでの経験から大切なことを学んでいます。
それがコミュニケーションです。

証券会社の仕事とは、電話をかけまくることだそうです。投資家に電話をかけ、アドバイスしたり情報を与えたりして取引してもらう。
しかし、相手は多忙な投資家ですから、電話をかけても話を聞いてもらえないどころか、出てすらもらえない世界なのだそうです。

「前田よ、仕事をなめるな。お前は株を勉強して、お客さんに投資判断のアドバイスをすることが仕事だと思っているだろ。全く違う。仕事は、ゲームだ。ゲームに勝つにはルールがある。そのルールをお前は、ちゃんとわかっていない。だから成果が出ないんだ」
「プライドの高い営業の電話を取りたいと思うか?プライドはコミュニケーションの邪魔になる。まず、お客さんとコミュニケーションの接点を増やせ。そうしないと、俺たちの仕事は始まらない。あいつはバカだと思ってくれたら、成功だ。バカを演じきった次の日に、お客さんに電話してみろ。俺の言っていることがわかるはずだ」

前田裕二|人生の勝算

情報を伝えることはコミュニケーションではないのです。自分をさらけ出し、相手を楽しませてこそコミュニケーションです。電話をかける時間帯や最初の話題の一つ一つまで、相手のことを思って考えて、初めてコミュニケーションなのです。
言うは易く行うは難し。頭のいい人ほど、優れた情報を伝えることに注力してしまい、コミュニケーションが取れません。

どんなビジネスであれ、肝になるのはコミュニケーションです。Showroomの配信者は優れた演奏や歌を届けることはできないかもしれませんが、”相手の立場に立って”コミュニケーションをとることで、コミュニティを強くしています。
どんなビジネス、立場においても、同じ原理原則があります。

コミュニケーションに求められることは、相手の立場に立つこと

ニューヨーク奮闘記

この章では、著書がニューヨーク本社に抜擢された経験からの学びを教えてくれます。ニューヨークは、日本よりも高いレベルで、より大きな成果を求められる環境です。
著者は「モチベーション」と「人生のコンパス」について教えてくれます。

モチベーションが高まらないという人の多くは、見極めが甘い。自分という大きな航海に出ているのに、方角を示すコンパスを持っていない。自分の進むべき道を定めていないから、途中でどこに向かっているのかわからなくなり、広い海の上で途方にくれます。そうなったら、一旦陸に戻ってでも、自分自身のコンパスを得るのが、結局遠回りに見えてベストだと思います。

前田裕二|人生の勝算

この言葉を見た時、自分が音楽をやっていた時のことを思い出しました。音楽活動はお金も稼げず、先も見えません。そんな中でモチベーションを持ち続けることは非常に難しい。私自身は「音楽で生きる」という航海ではモチベーションが続かなかったので、一旦陸に戻って別のコンパスを見つけた人間です。

今も付き合いのある友人に、音楽で生活している人がいます。といっても決して売れているわけではなく、音楽を軸にいろいろな仕事をして何とか食いつないでいるという状態です。彼は本当に忙しく、自身の音楽活動から他人のサポートまで、毎日寝ずに動き回っています。何度か倒れたことも知っています。そして、そんな生活を7年続けています。

どうして先が見えず苦しい中でモチベーションが持ち続けられるかというと、自分の人生の方向性が明確だからです。彼は音楽が好きで、音楽を軸に生きていると誓っていて、常にその方向を向いて進んでいます。売れるのではなく自分が作りたいものを作るというスタンスなので、正直これからも大きく売れることは難しいでしょう。しかし、自分自身のコンパスが向いている方向を理解しているため、モチベーションがなくなるということはありません。

もしも彼が音楽に捧げるモチベーションをビジネス、社会的成功に向けたら、間違いなく大成功するでしょう。そう感じさせる、圧倒的なエネルギーがあります。

最も不幸なことは、価値観という自分の船の指針、コンパスを持っていないということ。そして、持たぬが故に、隣の芝生が青く見えてしまうことです。

選ぶ、ということは、同時に、何かを捨てることです。何かを得ようと思ったら、他の何かを犠牲にしないといけない。人生の質を高めるのは、選択と集中です。

前田裕二|人生の勝算

私たちは、生まれた瞬間から死に向かっていきます。しかし、そのことを意識するチャンスはめったにないでしょう。
どこに進むにせよ何に進むにせよ、自分は死に向かっているのだという気持ちがあれば、無駄な行動はとらないでしょう。全力で進み続けるはずです。

前田裕二氏は「心から満足できたことは一度もない。もっと高い成果を出せたのに。もっと早く成果を出せたのに。いつも、悔しがっている」といいます。

Showroom起業

投資銀行家として大きな成果を残した著者ですが、「代替え可能な仕事に割く時間はない」「代替え不可能な価値を、新しく0から作り出して見せる」と、起業を決意します。

秋元康さんの言葉で、「夢は全力で手を伸ばした1㎜先にある」というものがあります。人生に失敗したり、夢破れた人たちの多くは、諦めた時に、実はどれだけその夢に近づいていたか、気づかなかった人たちである、と。夢というのは、どれだけ手を伸ばし続けても、到底届きそうにないんだけれど、全力で手を伸ばし続ければ1㎜先くらいにまで、夢から近づいてくることがある。そのチャンスをつかめるのは、常に全力で手を伸ばし続ける人だけ。そう解釈しています。だからこそ、みんなが諦めずに、手を伸ばし続ける社会を創りたい

前田裕二|人生の勝算

生まれ育った環境に恵まれた人が勝つのではなく努力した人が報われて、後天的に勝っていける世界が見たい。そんな思いでできたのが「Showroom」という金もコネも実力もないけれど、モチベーションだけはある、という人間が活躍できるプラットフォームです。

当然、最初からうまくいくわけはなく、初めてのライブ配信はバグだらけで、音声は止まる、コメントは見れない、と散々でした。しかし、一度の失敗で簡単にあきらめないために「コンパス」があるのです。何度も試行錯誤し、ビジョンを共有し、チーム一丸となって問題に取り組み、サービスとしての質を高めていったのです。
最初に目を付けたのはアイドルで、これは今でもShowroomの軸の一つになっています。秋元康氏によって、「会いに行ける」距離にまで縮まったアイドルは、Showroomのビジョンにピッタリでした。地道に活動を続ける、いわるゆ”地下アイドル”のライブを見に行き、プロデューサーへのアプローチを繰り返し、少しづつ規模を大きくしていきました。

こうして、Showroomはアイドル業界で「Showroomは大丈夫」という信頼を獲得します。
その信頼をもとに、素人やアイドル以外の配信者を集めたり、すでに売れていてShowroomを活用する必要がないようなS級アイドルにもアプローチし、ブランドを引き上げていきます。

扉は開くまでしつこくたたき続ける

秋元康氏はアイドル・エンターテインメント界の重鎮で、超多忙な人物です。Showroomは業界では少し話題になりましたが、何とか会う約束を取り付けても、秋元康氏にプレゼンを通すことは非常に難しい。

2015年の夏。秋元さんが仕事でロサンゼルスへ行く、という話を伺いました。僕はそこで、情報を教えてくれた方に、「自分もちょうどアメリカ展開の調査をしたいので、そのタイミングで現地に行きます。もし可能なら、向こうで合流したいです」と頼み込みました。その段階では、まだ、何も見えておらず、合流できるかどうかもわかりませんでした。
秋元康さんが書かれた、企画力や恋愛にまつわる本を、機内にすべて持ち込んで、貪るように読み漁りました。毛穴むき出しで秋元さんの価値観を吸収して、ロサンゼルスにつく頃には、半分秋元さんが自分に憑依しているのでは、といえるくらい、読み漁りました

前田裕二|人生の勝算

そこまでして、ようやく秋元康氏に「前田君、面白いね」といってもらうことができたのです。

有名人、実力者とのコラボは事業を大きく前進させる可能性があります。しかし、そうした人たちは暇ではありません。彼らのもとには毎日大量の”面白い話”が飛び込んでくるのです。一度や二度ノックしたくらいで、出てきてくれるわけがありません。
扉は、開くまでしつこく叩く。実際にここまでできる人は少ないでしょう。

Showroomの未来

目下の現実的な目標は、日本一。Showroomが日本一のサービスになり、上場して、より多くの人に深く影響を与える。ただし、これはあくまで単なる通過点にすぎません。
さらに次の目標は、世界一。Showroomを、日本初世界一の事業・サービスに仕立て上げ、グーグルを超えたいと思っています。そして、努力した人が公平・構成に夢をかなえられる社会づくりを、実現する。それが、どんな時も揺るがずに心にふつふつと湧き上がる、前田裕二の、そしてShowroomの長期ビジョンです

前田裕二|人生の勝算

テレビタレントのようにたくさんのファンを持たなくても、スナックのママのように少数の濃く応援してくれるファンがいれば、好きなことで食べていくことは現実的です。その環境を提供することが、Showroomの使命なのです。

Showroomの今後の目標は、アイドル以外のコンテンツを増やすことだといいます。
すでに「アイドルといえばShowroom」と呼ばれるほどのブランディングを持っています。次はほかのジャンルでの成功例を積み上げ、アイドルを応援するサービスではなく、社会に新しい価値観を提供するサービスなのだと、結果で証明していくのです。

今は、動画でもっとリッチにコミュニケーションしたい、自分を表現したい、ずっとつながっていたい、という潜在欲求が強くあるにもかかわらず、そのニーズがネット環境の制約というダムに、せき止められている状態です。ネット環境が進化すれば、そのダムは決壊し、本質的に人々が求めているコミュニケーション欲求を満たすサービス、つまり、ライブストリーミングが普及します

前田裕二|人生の勝算

今はソーシャルメディアの時代ですが、次に来るのはライブストリーミングの時代だと、著者は考えています。そして、その時代が来た時に世界一になれるよう、着々と準備を進めています。

前田裕二氏が世界一にこだわる理由は二つあります。

一つは、自分のコンパスが世界一を指し示しているからです。自分自身が、逆境をバネにどこまで高みに登れるのか、人生を通じて証明したいといいます。彼のモチベーションは「日本一」程度では許さないのです。

二つ目は、日本の本当の力を世界に示したいからです。確かに、今の日本は世界に対して遅れをとっています。トヨタやソニーなど、古くからある企業は世界の頂点をとりましたが、ここ数十年、新しい企業で世界一になったところはありません。ニューヨークの証券会社で活躍し、中国のビジネスに刺激を受けた著者だからこそ、「日本はもっとできる」という気持ちが強いのです。

――エンターテインメントを武器に、地球上の機会格差を無くす――
インドの東から西へ向かう青い寝台列車の中。真夜中、硬いシートの上で熟睡できずにウトウトしていると、どこからともなく、少年が近寄ってきて目が覚めました。見ると、足が不自由な様子で、懸命に、こちらに何かを訴えかけてきます。何を言っているかは分からないけれど、一通り喋り終えると、両手を器用に使って、二つの棒でドラムの真似事を始めました。「自分は、足は不自由だけれど、代わりに手を使って人を楽しませる事ができる。僕のパフォーマンスが良いと思ったら、お金を恵んで欲しい。」そういうことなのかなと、勝手に解釈して、その時に持っていたお金を渡しました。よほど眠りを邪魔された事が気に障ったのか、或いは階級社会の残痕か、その後、周りに居たインド人は、怒って少年を別の車両に追いやってしまったのですが、去っていく彼の後ろ姿が、妙に印象的で、脳裏に焼き付いています。

世界には、二種類の逆境があります。それは、努力や熱量で乗り越えていけるものと、本人の努力だけではどうしようもないもの。私がインドで出逢った少年は、後者の境遇に置かれていました。

彼に問題があるのでしょうか。私は、決してそうではないと考えます。仕組みや構造を作っている側にこそ責任があり、だからこそ、我々には、構造自体を変革する能力が備わっているはずです。

例えば、彼が下車した駅の前に、ライブストリーミングブースを作ったらどうか。何も仕組みが分からなくても、彼のパフォーマンスは世界中の人々にリアルタイムにブロードキャストされ、共感 / 感動した世界のどこかの人が、彼の夢を叶える為の資金を投じるかもしれません。

パフォーマンスは、言語の壁を簡単に越えます。一方で、例えば、歌は身一つで歌う事ができて、ハードルが皆無に等しい。一緒に歌を歌えば、世界中の誰とでも友達になる事ができます。エンターテインメントは、この世界をより平和で、ハッピーな場所にする為に、人類が編み出した最強のツールです。

このエンターテインメントを、インターネットと掛け合わせる事によって、非常に安価に、街中のあらゆる才能にスポットライトを当てていくことができます。SHOWROOMが目指す姿です。人は生まれてくる環境や運命を自ら選択する事はできませんが、強い志さえあれば、その境遇を跳ね除け、むしろバネにして、果てしない高みに到達できます。あらゆる人が均等にチャンスを得て、投じた努力量に応じて報われ、夢が叶っていく。そんな、公平で温かい世の中を創ることが、SHOWROOMのミッションであり、存在意義です。これからも我々SHOWROOMは、「エンターテインメント」を武器にして、一つ一つ着実に、命を懸けて、地球上に存在する機会格差を無くしていきます。

この言葉はShowroomのコーポレートサイトに記載された社長メッセージです。
逆境はバネになり、努力と情熱次第で、人はどんな高みにだって行ける。このことを世界に証明することが、前田裕二氏が自身に課したミッションです。

最後に。Showroomのいちユーザーとして

この記事を書きながら、「早季のstringsroom♪」というライブを見ていました。彼女はバイオリンやヴィオラ奏者で、野外ライブなど、都内で音楽活動をされています。

ヴァイオリンを弾きながら、ファンからのコメントに答え、リクエスト曲をその場で披露する。
「〇〇さん、久しぶり~」「あ、来てくれたんだ。ありがと!」といった声が聞こえる。
たまに「〇〇さん、ごめんね~。その曲は知らないや」という。

こんなことが、これまであっただろうか。
ヴァイオリニストだなんて、音楽家の中でも特に遠い存在だと思っていた。路上ライブで見かけることはあっても、声をかけるなんてできない。

それがこうして、気軽に曲をリクエストし、友達のようにやり取りをする。
Showroomは世界を変えるビジョンを持っているが、すでに世界を大きく変えた。